ACTIVE Vol7

「アクティブ・フォー・オール拠点と、 次のステージに向けて」 しかし、研究開発と事業化を目指して取組を進めてきたものがすべて終了するわけではなく、プロジェクト終了後も継続するテーマ、 取り組みを加速する連携など、新しいステージへと続きます。 プロジェクトリーダー、研究リーダー、サテライトリーダーに総括とこれから描く未来についてお伺いしました。 009 「人生100年時代」はリンダ・グラットン教授により 提言され、本邦でも健康寿命の延伸は大きな社会課 題となっております。順天堂大学サテライト拠点は解 決にむけて 「身体の動きの見える化と寝たきりゼロ」 をテーマとして設定し、立命館大学拠点とアンダーワ ンルーフで製品開発と社会実装活動を展開して参りま した。 具体的には、医療におけるサービス展開として、医療 施設のより安全で安心な空間、また遠隔での医療サー ビスの実現に向けてアクティブ・フォー・オール拠点が 開発した技術を応用しました。 前者では、空間シェアリング技術として生まれた超 指向性スピーカを、コロナ禍でニーズが高まった病院 内での感染予防アナウンスに活用しました。ソーシャ ルディスタンスを保ちながら患者様へ個別で伝言でき、 感染リスクを抑えることができます。 後者では、スマートウェア技術を疾患の診断や治療 につながる生体データのモニタリングに活用しました。 呼吸や睡眠といった身体の状態を自宅で常時把握す ることによって医療の精度が高まることが期待できま す。 両成果はSociety 5.0時代のニーズにかなった医療 私がプロジェクトリーダーに着任させて頂いたのが4年 前、社会実装フェーズより担当させていただきました。「Active for All」というビジョンと、そのような社会が実現でき たら本当に素晴らしいと思いましたが、ビジョンの実現を目 指すにあたり目的はあくまで「自走できる社会実装」である と再確認しスタートしました。最初はなかなか難しいもので 苦労しましたが、何とか完了させたいという思いで進めてま いりました。 プロジェクトを進めるにあたり注力したことは、大学の研 究により開発された技術を価値=商品・事業に変えることで す。しかしこの時には様々な課題が出てきます。 例えば空間シェアリング事業におけるスピーカー技術を そのまま商品として出そうと思うとユーザー価格は50万円 ぐらいになります。それをどうコストダウンしていくのか、そ してそこから改めて技術を作りなおさないと商品にならな いため、完成した技術に対してもう一回技術開発的な要素 が必要となります。ここが一番苦労し10か月くらいかかりま した。このステージを誰が解決するのかというのが社会実 装に向けた大きな課題であり、更にはユーザー側が果たして 使う価値を感じてくれるのかどうかがポイントとなるため、 そこに対する投資をする企業も必要となります。 そこで2019年にイノベーション・プラットフォームとして 一般社団法人スマートアール推進協議会を設立しました。 そこでは一つ目にそれぞれの得意なものを持っておられる パートナーを探して、そのパートナーに参画頂きました。プロ モーションする機能や営業を広げるための機能もそこには 含まれます。二つ目は前述の通り課題である価値に変える R&D(研究開発)機能を組織の中に持ちました。 そのプラットフォームを活用し、各事業において、「Active for All」実現に向けてのスタートではありますが、運動をよ り楽しくという切り口で、それぞれのテーマは、自走できる 社会実装の入り口まで到達することができました。この9年 間の取り組み総括としては成功したと思っています。 そして、社会実装をできたとしても、「商品」というのは世 に出した瞬間から陳腐化していきます。一般的には発売して から長くても3年、そのあとどういう商品を作っていくか、ど のように機能をアップしていくか、どのような方向に持って いくかを戦略上まとめておき、新たな技術開発が必要かを 検証し、もう一度研究へ戻さねばなりません。そのためにも、 その事業成果の中の一部を当然研究費として戻していく エコシステムを構築することが求められています。そうする ことで新しい研究もでき、また新たな社会実装を実現する 仕組みを回していけるような、ベストプラクティスを作りた いという想いが出てきました。COIでのプロジェクトは終了 しますが、これがゴールではなくいよいよ社会実装のスター トとなります。これから更に事業的に面白いものとして発展 していくと思います。次のステージでも大学の中にある多く の技術の種を価値に変えることで産学連携による事業創出 につながることを期待しています。 人びとが知らず知らずのうちに運動を実践し、その 習慣を定着させる 「運動の生活カルチャー化」の実現に よって、健康寿命延伸し、「Active for All」となることを 目指して、大学、企業、自治体が連携して本事業を進め てきました。その実績と成果は、確実に積み上がってき ており、研究開発から社会実装につながり、今後は社会 システムへの影響、展開にまでつなげられるように進ん できています。 この間、科学技術基本計画において、 フィジカルとサ イバー空間を高度に融合させたシステムにより、経済 発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会 (Society5.0)が提唱されてきています。コロナ禍の中、 ICTが一気に加速する環境は、運動の生活カルチャー 化の取り組みにおいても、フィジカルとサイバーのそれ ぞれの強みと、さらには両者を融合した強みによって、 「運動誘導」が進むことにも挑戦してきています。 COI事業を通じて、大学では、起業・事業化推進室が 立ち上がり、大学発の研究成果、技術を社会に還元する ための組織ができました。さらには、COIでの研究成果、 技術シーズを事業化・社会実装を推進する一般社団法 人スマートアール推進協議会が立ち上がり、研究、開発、 人材育成から事業化・社会実装までを含めたイノベー ション・プラットフォームが構築できました。このプラッ トフォームの機能をさらに精緻化・最適化させていくこ とが求められます。 さらに立命館大学は、2030年に 「次世代研究大学」 となり、イノベーション・創発性人材とともに、社会共生 価値の創出することを目指しており、「Active for All」 の実現は、大学に中期計画の施策である「健康・長寿・ QOL・Welfareを総合した研究教育展開」につながり ます。その中で、COI事業の成果を継承し発展させるた め、学内にウェルビーイング総合研究所(仮)の設置を 構想しています。この研究所は「健康・長寿の実現」・「ま ち・社会の健康を実現」・「スポーツを通じたウェルビー イングの向上」を理念に掲げ、健康・ウェルフェア分野に おける総合的な研究を推進し、新しい学理の創生を追 及するとともに、これまでに構築したイノベーション・プ ラットフォームを利用して基盤技術開発、応用技術開発、 事業化・社会実装まで展開していきます。 「Active for All」実現とともに、社会共生価 値の創造拠点として発展することを、次の ステージでは目指していきます。 サービス提供になると考えます。 拠点の目標である「運動習慣の定着」はロコモティ ブシンドローム対策ともなります。 そこでロコモの見える化と予防へ効果的な運動プロ グラムを開発しました。 また、運動を継続するためにバイオシグナルアート 技術を東京藝術大学拠点とも連携して取り組みました。 運動指導は当初対面でしたが、コロナ禍での制限のた め、サイバー空間として順大さくら”筋活”講座をイン ターネットに開設したところ、運動不足解消ニーズにも マッチして登録会員数は千名を超えています。 最終年度では一般社団法人生涯健康社会推進機構 によりオンライン教室の事業化を開始しております。 9年間にわたった本活動にともなってヘルスケアの デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいま す。その流れにも則り、今後は参加者様へ身体や運動 データのフィードバックを進めます。情報を健康増進 へ活かす仕組み創りは、これまで携わってきたアクティ ブ化計画のバージョンアップ版として想定しています。 身体の動きのセルフチェックをDX化して、いつまで も活躍し続ける人生100年時代に向けて皆様と取り組 んで参りたいと思います。 010 伊坂 忠夫 立命館大学副学長 スポーツ健康科部スポーツ健康科学科教授 アクティブ・フォー・オール拠点研究リーダー 内藤 久士 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科・教授 スポーツ健康医科学研究所・所長 アクティブ・フォー・オールサテライト拠点 サテライトリーダー 田中孝英 オムロンヘルスケア株式会社 商品・開発・生産SCM担当執行役員常務 開発統括本部本部長 アクティブ・フォー・オール拠点 プロジェクトリーダー COIプロジェクトは「10年後の日本が目指すべき姿」からバックキャストした研究開発として2013年 にスタートし、2022年3月に9年間のプロジェクトが終了します。

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